新NISAの口座は作った。でもiDeCoは、名前しか知らない。何がそんなに違うんだろう?
違いは大きく二つ。掛金がまるごと所得控除になること、そして原則60歳まで引き出せないこと。この二つを軸にすると、きれいに整理できます。
iDeCo(個人型確定拠出年金)とは、自分で掛金を出し、自分で運用商品を選び、原則60歳以降に受け取る私的年金制度である。掛金は月5,000円から1,000円単位で設定でき、その全額が所得控除の対象になる。たとえば月1万円を拠出し、所得税10%・住民税10%の人なら、税負担は年間2万4,000円軽くなる——iDeCo公式サイトが示す例だ。
ただし、この制度はあくまで「年金」である。拠出したお金は原則60歳まで引き出せない。本稿では、三つの税制優遇、職業ごとの掛金上限、手数料という固定費、そして新NISAとの使い分けを順に整理する。
- iDeCoの三つの税制優遇(掛金・運用益・受取時)
- 職業ごとの掛金上限(現行の月額)
- 原則60歳まで引き出せない制約と、月171円からの手数料
- 新NISAとどちらを先にするかを考える軸
自分でつくる、もうひとつの年金
iDeCoの実施主体は国民年金基金連合会で、国民年金や厚生年金の「上乗せ」を自分の手で用意するための器にあたる。加入できるのは、国民年金の第1号被保険者(自営業者など)と第3号被保険者(専業主婦・主夫)が20歳以上60歳未満、第2号被保険者(会社員・公務員など厚生年金の加入者)が20歳以上65歳未満。60歳以降に国民年金へ任意加入している人や海外居住の任意加入者も対象になる。
毎月の掛金を自分で決め、金融機関が用意する商品の中から運用先を自分で選ぶ。将来受け取る額は運用の結果次第で変わる。「確定拠出」という名前は、給付額ではなく拠出額のほうが確定している、という意味である。
入口、途中、出口——三つの税制優遇
iDeCoの税制優遇は、お金の流れに沿って三か所に置かれている。
掛金を出すとき。 掛金の全額が所得控除(小規模企業共済等掛金控除)の対象になる。冒頭の例のとおり、月1万円・所得税10%+住民税10%なら年間2万4,000円。運用がどうであれ、拠出を続けるかぎり毎年生じる軽減である。
運用している間。 通常、金融商品の運用益には20.315%の税金がかかるが、iDeCo口座内の運用益は非課税のまま再投資される。なお、積立金には特別法人税(年1.173%)という税が制度上存在するものの、現在は課税が停止されている。
受け取るとき。 一時金で受け取る場合は退職所得控除、年金形式で受け取る場合は公的年金等控除の対象になる。受取時にも控除の仕組みが用意されている、という設計である。
新NISAが持っているのはこのうち「運用している間」の非課税だけであり、入口と出口の優遇はiDeCo固有のものだ。この違いが、後述する使い分けの軸になる。
掛金の上限は、職業で決まる
掛金の月額上限は、国民年金のどの区分に属するかで変わる。2026年7月時点の現行の上限は次のとおり。
| 加入区分 | 月額上限(現行) |
|---|---|
| 自営業者など(第1号被保険者) | 68,000円 |
| 会社員(企業年金なし) | 23,000円 |
| 会社員(企業型DCのみに加入) | 20,000円 |
| 会社員(DBなど他制度に加入)・公務員 | 20,000円 |
| 専業主婦・主夫(第3号被保険者) | 23,000円 |
第1号被保険者の68,000円は、国民年金基金や付加保険料と合算しての枠である。企業型DCに加入している会社員は事業主掛金と合わせて55,000円まで、DB等加入者・公務員は「55,000円から他制度の掛金相当額を引いた額」の範囲内で、それぞれ月20,000円が上限になる。
公務員やDB加入者の上限は、2024年12月に12,000円から20,000円へ引き上げ済みだ。同じ改正で、会社員・公務員が加入時に勤務先へ依頼していた「事業主証明書」の提出も原則不要になった。勤め人にとっての手続きの壁は、以前より低い。
60歳まで、引き出せない
iDeCoの老齢給付金を受け取れるのは原則60歳から。それより前に、自己都合で引き出すことはできない。しかも60歳から受け取るには通算加入者等期間が10年以上必要で、10年に満たない場合は、期間に応じて受給開始が61〜65歳へ段階的に繰り下がる。受給開始の時期そのものは、60歳から75歳の間で自分で選べる。
- 加入が遅いなどで通算加入者等期間が10年に満たないと、60歳ちょうどからは受け取れない場合がある
- 住宅資金・教育資金など、60歳より前に使う予定のあるお金はiDeCoに向かない。生活費の備えは別に確保したうえで、掛金を決めたい
引き出せない不便は、裏返せば「降りない仕組み」でもある。老後の資金は、意志ではなく設計で守る。
この制約をどう評価するかが、iDeCoとの距離感を決める。使途が老後資金に固定されているからこその税制優遇であり、流動性と引き換えの取引だと捉えるのが正確だろう。
月171円からの固定費
iDeCoには手数料がかかる。加入時に2,829円(国民年金基金連合会・初回のみ)。毎月の掛金拠出のつど、連合会に105円、事務委託先の信託銀行に66円——合わせて月171円が最低ラインになる。これに金融機関ごとの運営管理機関手数料が上乗せされる場合があるが、主要なネット証券のように無条件で0円とする金融機関もある。受取時にも給付のつど440円がかかる。
運用益の非課税や所得控除に比べれば小さな数字だが、掛金が月5,000円なら固定費の相対的な重みは無視できない。金融機関を選ぶ際は、商品の顔ぶれと並んで、運営管理機関手数料が0円かどうかを確認しておきたい。
国民年金基金連合会のリーフレットによれば、掛金拠出時の手数料105円は120円へ改定される。適用は2026年12月分の掛金、つまり2027年1月26日の口座引落し分から。理由は物価・人件費の上昇とされ、加入時の2,829円に変更はない。改定後の月額最低ラインは186円になる。
新NISAと、どちらを先にするか
制度の細部は新NISAの解説記事に譲るとして、比較に必要な範囲でおさらいする。新NISAは年間360万円(つみたて投資枠120万円+成長投資枠240万円)、生涯1,800万円まで投資でき、掛金への所得控除はなく、いつでも引き出せる。並べると、二つの制度の性格の違いがはっきりする。
| iDeCo | 新NISA | |
|---|---|---|
| 拠出・投資したとき | 掛金の全額が所得控除 | 所得控除なし |
| 運用している間 | 運用益は非課税 | 運用益は非課税 |
| 引き出すとき | 原則60歳まで不可。退職所得控除・公的年金等控除の対象 | いつでも可能。非課税 |
| 上限 | 職業ごとに月5,000〜68,000円 | 年間360万円・生涯1,800万円 |
だとすれば、問いは「どちらの制度が優れているか」ではなく「どのお金をどちらに置くか」に置き換えられる。老後まで動かさないと言い切れる金額だけをiDeCoに、それ以外——使う時期が読めないお金、60歳より前に使うかもしれないお金——を新NISAに。この切り分けが、両制度の設計にいちばん素直に沿う。
判断の軸は二つある。ひとつは所得控除の効き方で、この優遇は納めている所得税・住民税があってはじめて働く。課税所得が大きい人ほど、また拠出を長く続けるほど、恩恵は積み上がる。もうひとつは資金を固定できる度合いで、家計に余白が少ないうちは、引き出せる新NISAを土台にするほうが無理がない。どちらを先にするかの正解は家計ごとに違うため、ここで一律の順番を示すことはしない。
決まっていることと、まだ始まっていないこと
iDeCoは近く形が変わる。2025年6月13日に成立した年金制度改正法により、iDeCo関連の主要な改正は2026年12月1日に施行される予定だ。本稿の時点(2026年7月)では、まだ施行されていない。
予定されている主な変更は二つ。掛金上限の引き上げでは、第1号被保険者が月68,000円から75,000円へ(国民年金基金と合わせて75,000円が上限)、第2号被保険者は企業年金の有無を問わず月額最大62,000円に統一される(企業年金がある場合は合算で62,000円が上限)。加入可能年齢も、老齢基礎年金やiDeCoの老齢給付金を受給していないなどの条件を満たせば、70歳未満まで広がる予定である。
ただし、いま加入を検討する人が使える数字は、あくまで前掲の現行の上限だ。決まっていることと、まだ始まっていないことの区別は——新NISAの改正がそうであるように——制度と付き合ううえでの基本になる。
税制優遇の大きさだけを見れば、iDeCoは有利な器である。その有利さは、60歳まで降りられないという設計と引き換えになっている。月5,000円から始められ、上限まで使う義務はない。老後まで動かさないと決められる金額を、静かに積む。それでこの制度の役割は十分に果たされる。
参考資料
- iDeCo公式サイト(国民年金基金連合会)「iDeCoの仕組み」——加入資格・掛金・受取方法
- iDeCo公式サイト「iDeCoのメリット」——3つの税制優遇
- iDeCo公式サイト「iDeCoをはじめるまでの4つのステップ」——掛金上限額
- 国民年金基金連合会「加入者に係る手数料見直しのお知らせ」リーフレット(PDF)
- 厚生労働省「iDeCoがパワーアップします」——2026年12月からの拠出限度額・加入年齢の引き上げ(PDF)
- 厚生労働省「iDeCoの加入可能年齢の引き上げ」詳細資料(PDF)
- 厚生労働省「2025年の制度改正」——施行日一覧
- 厚生労働省「2024年12月からiDeCoの拠出限度額が1.2万円→2万円になります」(PDF)
- 楽天証券「iDeCoの手数料」——国民年金基金連合会・信託銀行・運営管理機関の内訳
- 金融庁「NISAを利用する皆さまへ」——新NISAの年間投資枠・非課税保有限度額(PDF)
※制度内容は2026年7月14日時点の一次資料に基づく。